日本脳神経外科救急学会

第26回日本脳神経外科救急学会
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第26回日本脳神経外科救急学会開催報告

 
第26回日本脳神経外科救急学会会長

第26回日本脳神経外科救急学会
会長 宮地 茂
愛知医科大学脳神経外科 主任教授

 
 

令和3年2月5、6日に開催させていただきました第26回日本脳神経外科救急学会についてご報告させていただきます。コロナ禍の中、それでも当初は会場開催とWEB配信のハイブリッド形式で行うことを目指して準備してまいりましたが、年が明けて主要都市に緊急事態宣言が発令されるにあたり、現地開催は断念せざるをえなくなり、史上初の完全オンライン開催となりました。これに伴い、PNLSなどの実習コースや、機器展示、懇親会などの企画も不可能となり、かなりコンパクトな学会となってしまいました。しかしそれなら中身だけは充実させようということで、現在直面している社会問題の中で、我々の学会こそが取り組むべき課題を主に抽出しました。テーマは、我々の学会の最終的な目標であり、かつ叫ぶべきスローガンをそのまま表現し、下記のようにしました。

脳を救うぞ!

セッションとして、緊急特別シンポジウム、2つの特別シンポジウム、8つのシンポジウム、それにコメディカルセッションと教育セッションを企画し、一般演題も広く公募いたしました。全部で135演題(シンポジウム、教育セッション等で84演題、一般51演題)という、コロナ禍の非常事態においても多くの演題をお寄せいただきました。またWEB視聴という馴染みのない形式にもかかわらず、二日間で350名ものご参加、ご視聴をいただきました。ご参会、ご支援いただいた皆様には、紙面をお借りして厚く御礼申し上げます。

この中で、特に特別シンポジウム「救うぞ!運転者を」においては、高齢者ドライバーの増加に伴い多発している逆走、踏み間違い、運転者急病などが原因の交通事故についてとりあげ、てんかん患者の運転許可への新しい枠組みづくりや、運転者急病における対応の現実、また交通外傷の治療の実際についてお話しいただきました。また安全装置開発の現状についてトヨタの最新技術をご発表いただき、医療と工学技術の両面からこの問題についてアプローチする重要性が明らかとなりました。シンポジウムの「救うぞ!子供を」では、乳幼児の神経救急について学べた他、社会問題となっている小児虐待を取り上げ、その概念と診断基準が大きく変化していることが明らかとなり、神経救急医の立ち位置も認識されました。またこの学会ではこれまであまり取り上げられて来なかった脊髄にもスポットをあてました。脊髄損傷の急性期治療の有用性について再認識できたほか、今回の大きなトピックスであり、現在最も注目されている脊髄再生療法について、我が国を代表するエキスパートの3名の先生から最新の進捗と結果をたっぷりご講義いただき、大変好評でした。一方、脳卒中・循環器対策基本法や血栓回収療法に対する実施医基準が制定され、急性期脳卒中への対応はこの一年で大きく変化してきました。「救える環境をつくるぞ」のセッションでは、働き方改革による救急医の労働環境の補償や、社会保障制度改革に伴う医療体制の問題も含めて最新の取り組みが発表されました。一方、全国消防本部にご協力いただいたアンケートでは、脳主幹動脈閉塞患者の判別スケールの地域差および徹底不足や、専門医師の不在による搬送体制の問題などが浮き彫りになり、今後の課題とされました。この他、救急学会の3本の柱である外傷(災害)、脳虚血、脳出血(特にクモ膜下出血)についても、最新の知見と新しいシステムや技術革新について大変有益なシンポジウムが繰り広げられました。

さて、今回このような開催スタイルをとらざるをえなくなった原因(元凶)は、COVID-19の大感染であります。神経救急の現場でも多大なる負担と制限が課され、医療環境も危機的状況まで陥りました。この喫緊の重大問題については緊急特別シンポジウムとして、2時間をかけて各施設の対応法や取り組みについて発表していただきました。現場の苦悩が伝わるような生々しい発表が続きましたが、特に今回海外からのゲストとしてご招待しましたUCLAの立嶋先生からは、米国の悲惨な状況が発表され、あらためてこの感染の恐怖とそれに対する心構えを認識するセッションとなりました。

文化講演をお願いしたのは産経新聞の元論説委員で、作家、ジャーナリストの河合雅司先生です。先生は名古屋のご出身で、著作を拝読して賛同することが大変多かったので、ぜひお越しいただいて直にお話をお聞きしたかったのですが、かなわず大変残念でした。河合先生は「未来の年表」などのシリーズで人口減少社会の行く末について警鐘を鳴らしておられますが、数十年後には人口が半減する日本がどう変わっていくのかについてお話しくださいました。現在これにコロナ禍が加わってさらに混沌しているわけですが、先生はこれを来るべき縮小社会にむけての一種の予行練習として捉え、早めに対策を取るべく課された試練であることを強調されておられました。医療環境の整備、特に僻地医療を含む診療体制についても取り組んでいくきっかけを我々に与えてくださったと思います。改めて有用なご提言をいただきましたことに感謝申し上げます。

今回は密な実習ができないため、これまで続いてきた伝統であるPNLSなどの講習が開催できませんでした。コメディカルの皆様のセッションも十分作れなかった上、Asian Young Neurosurgeons Forum、幹事企画セッションにつきましても時間不足のために断念せざるをえませんでした。関係の皆様には深くお詫び申し上げます。ただ会員の皆様の学習に少しでも寄与できるようにと、「救う人を育てるぞ!」という教育セッションを設けました。全部を網羅するわけには行かず、エッセンスのみの伝達になってしまいましたが、単なる知識教育だけでなく、救急医として学ぶべき基本と視点を主眼としました。特に最後の横堀先生の救急医としてのマインドを伝えるご講演は大きな感動と共感を呼びました。

本会では、完全オンラインという初めての取り組みであったため、懸念していた通り、通信トラブルや操作不良のため、一部の先生にご不便とご迷惑をおかけしました。大変申し訳ありませんでした。しかしながらなんとか大きなアクシデントもなく、やり切ることができましたのは、皆様のご支援とご協力のおかげと心より感謝申し上げます。

私見ではありますが、学会のあり方として、日頃の成果を発表し、お互いが勉強しあうだけではなく、そこから社会に向けて情報提供をし、メッセージを発信することで国民に還元していくことも重要な責務ではないかと考えます。そのコンセプトに従って企画を構成したため、参会の皆様には異質で物足らない内容であったかもしれませんが、社会に向けてのある程度のアピールと貢献はできたのではないかと感じております。

コロナの完全収束がいつになるのか不透明な中で、我々の救急現場はまだまだ困難な状態が続くと思われます。来年周郷信雄会長が主催される第27回の会においては「パンデミック下の脳神経外科救急」というテーマで、さらに我々の進むべき道を示していただけるものと思います。この第26回大会が、ご参加の皆様にとって少しでも記憶にまた心に残る学会となり、本会での知見や成果が、皆様の少しでもお役にたちますなら主催者としてこの上ない喜びであります。また本会において参会管理、WEB配信を完璧に行っていただきました運営スタッフのみなさま、事務局長をはじめとして作業を献身的にサポートしてくれた医局員の皆に心より感謝いたします。

最後になりましたが、皆様の今後のご発展とご健勝を祈念いたしますとともに、来年こそは皆様に東京でお会いできますことを祈っております。

令和3年2月15日

 
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